販売業者と製造物責任
自社の販売した製品や商品に欠陥があって購入者あるいは
他の第3者が損害を被った場合、どのような責任を負うので
しょうか。
<販売業者が賠償責任を負う法的根拠>
製造物責任法では原則として販売業者を責任主体としてません。
しかし、民法による責任追及がなされたり、販売業者が製造物
責任法第2条3項の責任主体と成り得ることがあります。また、
現行の製造物責任法が制定される以前にも販売業者が民法に
基づき責任を追及された判例もあります。
◆民法の規定による責任
(1)債務不履行責任(民法415条)
製造物が消費者の手に届くまでには、加工などの生産段階、
輸入・梱包・運送等の流通段階、販売・賃貸・設置等の供給段
階の各段階を経るのが通常です。したがって当該製造物が消
費者に届くまでには複数の業者の関与が認められます。販売
業者は販売した製品に欠陥があった場合、これを確認せずに
販売したことについて販売業者の過失が認められれば、債務不
履行責任に基づく損害賠償責任を請求されることがあります。
判例としては神戸地裁昭和53年8月30日判決(判例時報917
号103頁)があります。本件は販売業者からバトミントンラケッ
トを購入し小学生が負傷した事例です。裁判所は販売業者に
は「商品を流通に置く者は消費者の生命、身体、財産上の
法益を配慮すべき注意義務がある」と判示しました。本判決
では販売業者の信義則上の義務は買主のみならずその家族
にも及ぶと解釈しています。
(2)不法行為責任(民法709条)
債務不履行責任のように直接契約関係がない場合にも民法709
条の不法行為責任に基づき、販売業者が消費者から責任を追
及される場合も考えられます。判例としては名古屋高裁昭和56
年1月28日判決(判例時報1003号104頁)があります。本件は
中古車トラックを販売してわずか数日後、運転中にブレーキがき
かなくなって追突事故が発生した事例です。裁判所は販売業者に
厳しい注意義務を課し「自動車の構造上の欠陥に起因して身体、
生命、財産に被害が生じることを回避する不法行為法上の義務を
負う」と判示し、原審を支持しました。
(1)製造物責任法2条3項1号(責任主体)
同号により「当該製造物を業として製造、加工又は
輸入したる者」が責任主体として挙げられています。
販売業者は、「加工又は輸入したる者」の場合に責任
を負う可能性があります。加工に関しては例えば商
品の中身だけを製造業者が製造し、外箱の作成及び
包装は販売業者が行った場合で警告表示が十分でな
かった等の場合です。また輸入業者は製造・加工を
行ったのが海外の製造業者である場合には製造物責
任法の主体として責任を免れません。
(2)製造物責任法2条3項2号、3号(責任主体)
2号により「自ら当該生産物の製造業者として当該
製造物にその氏名、商号、商標その他の表示をした
者または当該製造物にその製造者と誤認させるよう
な氏名等の表示をした者」が責任主体として挙げら
れています。この規定により責任主体となるのは、
例えばスーパーマーケットなどのプライベートブラ
ンド商品、「製造元○○」、「輸入元○○」等自己の氏
名などの肩書きを付した商品などの販売業者です。
商品を購入する消費者は表示されているブランド名
を見て商品の品質や安全性を信頼し購入します。消
費者の信頼は例えばプライベート商品の場合、実際
の製造業者に対してではなくプライベートブランド
を表示した販売業者に向けられています。ブランド
表示者も商品に企画、設計などに係わっていること
で製造物の品質・安全性に対しても責任を持つべき
だとされています。
3号では「当該製造物の製造、加工、輸入又は販売
に係わる形態その他の事情から見て、当該製造物に
実質的な製造業者と認めることができる氏名等の
表示をした者」を責任主体としています。この規定
に該当するのは現実の製造業者でもなく、第2号の
表示上の製造業者でもないが、その者が製造物の企
画をし、製造上の指示を行い、使用上の注意を作成
し、場合によってはその商品の一手販売を行う等実
質的に相当程度その製造販売に関与し、消費者もこ
のような実態をふまえてその販売者を信頼して当該
製造物を購入している場合等における販売者とされ
ています。
(3)製造物責任法を根拠に損害賠償請求がなされた
近時の判例としては次の判例があります。いずれも
販売業者の責任が認められています。
① 東京地裁 平成13年2月28日判決
(判例タイムズ1068号181頁)
レストランでの食中毒で、輸入業者の瓶詰めオリーブが原因であり、
菌は開封前に混入していたとして販売業者(輸入業者)に責任が
あると判示しました。
② 東京地裁 平成15年5月29日判決
(中日新聞 平成15年5月28日朝刊)
購入した外国製高級車に欠陥や修理の不備があり、車両火災が
起き障害を負ったとして損害賠償を求めた訴訟で輸入元に製造物
責任があると判示しました。