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輸入業者とPL法

1.輸入業者とPL法

製造業者とともに輸入業者もPL法において責任主体となります。
その根拠として、以下の事項が挙げられます。

・輸入業者は日本国内における最初の流通開始者または製品供給者である
・輸入業者は日本国内の規制を受ける最初の事業者である
・外国の製造業者の責任を問うことが実質的に困難な場合が考えられる

 例えば、商社がアメリカから玩具を輸入し、国内の流通業者を通じ全国で
販売したとします。
その玩具に設計上の欠陥があり、玩具を使用していた子供がケガをした場合、
商社はPL法において責任を負わなければなりません。

 輸入業者も事故発生の際、製造物責任を負う可能性があることから、
製造業者同様、万全のPL対策が求められています。

輸入業者固有のPL対策として、前項で述べた以外に以下の項目が挙げら
れます。

internallink_icon_01.gif1)輸入製品の品質・安全基準の確認
 輸入業者の最善のPL対策は、欠陥のない製品を輸入することです。
しかし、欠陥の全くない製品を輸入するのは不可能です。
従って、輸入業者は、少なくとも製品に関する我が国の品質・安全基準
(例えば、食品であれば「食品衛生法」、電気製品であれば「電気用
品取締法」など)について確認し、これに合致した製品の輸入に努める
ことが重要です。

 たとえ輸出国の品質・安全基準を満たしていても、我が国の法令で定め
る基準を満たしていない場合、輸入業者は製造業者に対し、製品の設計
・製造について指導を行うことが必要になります。
また、製造業者の安全・品質管理体制についても常に把握し、不十分な
点がある場合には指導を行います。

internallink_icon_01.gif2)取扱説明書や警告ラベルの作成方法
 製品本体の製造・設計に欠陥がない場合でも、製品の取扱説明書や
警告ラベルの表示が適切でないときは、当該製品に欠陥があると判断
されます。

 輸入品の取扱説明書や警告ラベルの表示は、我が国の消費者が理
解できるように日本語に翻訳する必要があります。
この際、意味・内容を取り違えたり、日本語として分かりにくい文章にす
るなど、適切な翻訳がなされていないと、「警告・表示上の欠陥」とし
て輸入業者がPL責任を負う可能性があります。
そればかりか、海外の製造業者に対する求償権をも失うおそれがある
ので十分な注意が必要です。

 従って、輸入業者が取扱説明書や警告ラベルなどを作成する場合は、
製造業者に内容の確認をとりながら作業を進める必要があります。  

2.製造業者のPL対策の確認

輸入した製品を我が国で販売する場合、海外の製造業者がどのようなPL
対策を講じて
いるかを確認することが重要です。その際の確認方法として、

 ・製品の設計図・仕様書
 ・各種安全基準の認定証
 ・製造工程表
 ・取扱い説明書・警告表示
 ・クレーム処理マニュアル
 ・PL保険証券の写し

などの資料を製造業者から入手し、その内容をチェックをします。

 また、以上の資料だけで不十分な場合、輸入業者は製造業者の担当者
から直接話しを聞くか、もしくは製造工場を訪問します。

製造業者のPL対策を確認した結果、我が国で製品を販売する際に問題と
なる点が判明した場合には、輸入業者は製造業者に対策の改善を求めな
ければなりません。

internallink_icon_01.gif輸入契約の締結
 輸入した製品に欠陥があり、これにより事故が発生した場合、PL法の
規定により輸入業者は製造物責任を負います。しかし、輸入業者と海外
の製造業者の間の責任関係については、PL法では規定がされていません。

 従って、輸入業者が製造業者と輸入契約を締結する際には、製品の
欠陥により輸入業者が損害賠償請求を受けた場合、製造業者に求償で
きる旨の条項を盛り込んでおく必要があります。
そのほか、可能であれば契約書に・製品に関してクレームが起こった場
合、すべて海外の製造業者の責任で対処し、輸入業者に損害や負担を
かけないこと、海外の製造業者は、クレームに備えるため日本を対象地
域とするPL保険に加入するなどの条項も盛り込んでおきます。

 以上から輸入業者が、海外から製品を輸入する場合、事前に製造業者な
らびに製品の安全性の評価を十分行うことが何よりも大切なポイントとい
えます。
 

 

PL法の概要

1.製造物責任(PL)法の概要

製造物責任法(以下「PL法」)は、消費者が製品の欠陥によって生命、
身体または財産に損害を被ったことを証明した場合に、製品の製造者など
に対して損害賠償を求めることができる法律です。
94年7月に公布され、その翌年の95年7月から施行されました。
 PL法施行以前は、製品の欠陥によって損害が生じた場合、製造者は、
故意または過失がなければ製造者責任が問われませんでした(民法709条)。

しかし、消費者が製造者の故意または過失を証明するのは非常に難しく、
この仕組みは公平性に欠ける不十分なものでした。

 本法施行により、消費者が当該製造物について欠陥があったことを証明
した場合、製造者はたとえ過失がなくとも責任を負わなければならなくな
りました。

消費者庁:製造物責任(PL)法について
 http://www.consumer.go.jp/kankeihourei/seizoubutsu/pl-j.html

本法の要旨は以下の通りです。

<目的>
 第1条 製造物の欠陥で被害が生じた際の製造業者の損害賠償の
責任について定める。
 被害者の保護をはかり、国民生活の安定向上と国民経済の健全な
発展に役立てる。

<定義>
第2条 「欠陥」とは、製品の特性や通常考えられる使用方法、製
造業者が製品を出荷した時期などを考慮したうえで、製造物が通常
持っているはずの安全性を欠いていることを指す。

<製造物責任>
第3条 製造業者は出荷した製品の欠陥が原因で、他人の生命、
身体や財産を侵害した場合、生じた損害に賠償責任を負う。

<免責事由>
第4条 製造物を出荷した時点での科学技術の水準では、製品の欠
陥を知ることができなかった場合、企業は賠償責任を免れる。

<期間の制限>
第5条 製造業者が被害者に対して損害賠償責任を負うのは、製品
を出荷した時から10年間とする。

また、被害者が製品を出荷した企業を知ったにもかかわらず、その
後、3年間に賠償請求しないと、企業は賠償責任を免れる。

<民法の適用>
 第6条 製造物の欠陥による製造業者の損害賠償責任については、
PL法の規定のほか、民法の規定による。 

internallink_icon_01.gif2.PL法への対応

PL法の施行により、製造物責任を巡る情勢は少なからず変化し、
消費者の製品安全に対する関心や損害賠償請求意識が高まりました。

さらに、98年1月の民事訴訟法の改正により、民事訴訟における法
手続きが簡素化されたため、PL問題が企業経営上の重大なリスク
として広く注目を集めてきています。

 企業がPL対策を行う際、設計・製造面の対策のみでなく、考慮し
なければならないポイントとして、「表示・取扱説明の充実」「社内体制の構築」そして「PL保険への加入」が挙げられます。以下では
こうしたポイントについて説明します。

1)表示・取扱説明の充実

 PL法における欠陥とは、製造物が通常有すべき安全性を欠いて
いることを指します。
これは単なる「製品自体の欠陥」だけではなく、警告ラベルの不
備や販売パンフレットの不備といった「警告・表示上の欠陥」も含
まれます。
 従って、製造業者や輸入業者などは、製品に関する警告・表示
事項について細心の注意を払う必要があります。その際に留意すべ
き点は以下の通りです。

・過去の事故やクレームを参考にする
・表示事項の優先度、内容および表示方法の見直しを図る
・危険レベル(危険・警告・注意)の表示などに統一的な基準を導入する
・取扱説明書の内容をより一層分かりやすいものにする

【PL法における欠陥】

設計上の欠陥
製品自体の欠陥・安全設計の不十分
・安全装置の不備、重要保安部品の耐久性不足 
・技術水準に不合格

製造上の欠陥    
・製造の品質管理不良による安全装置の故障
・検査不十分による材質欠陥・組立不良部分の見過ごし
・原材料受け入れ検査の不十分

表示上の欠陥                  
取扱説明書・警告ラベルの不備
警告・表示上の欠陥・警告事項の不備・不十分、明示の保証違反
販売パンフレット・広告宣伝、販売員の口頭説明の不備 
・不実表示(過失的・詐欺的、明示の保証違反)

2)社内体制の構築

 経営者は自ら先頭に立ち、PL対策への取り組みを全社的に推進し なければなりません。
その際に留意すべき点は以下の通りです。

・社員教育を徹底し、製品の安全性を重視する社風を作り出す
・製品の技術開発、安全性試験の強化を図る ・製造工程の改善、製造マニュアルの見直しを図る
・部品・原材料の品質管理を徹底する
・PL対策部門の設置および専任スタッフを任命する
・検査記録などの文書の管理をしっかり行う
・消費者のクレームなどを迅速に処理するため、紛争解決体制を整備する
・ISO9000シリーズの認証を取得する(PL訴訟の際、証拠提出や品質水準
の証明などで有利に働くことが多い)

3)PL保険への加入

 上述した取り組みによって、「製品自体の欠陥」や「警告・表示上
の欠陥」に対し細心の注意を払っていても、事故が発生する可能性は
ゼロにはなりません。
万一事故が発生した場合、企業は多額の費用負担を強いられる可能性
があります。
それを回避するための手段として「PL保険への加入」が挙げられます。

 PL保険は、損害保険会社が取り扱っています。
基本的にこの保険は事故時保険会社の示談交渉サービスは付帯され
ていません
ので、企業分野に強い損害保険代理店に取り扱いをまかせ
れば、いざというときに、力になってくれるでしょう。

relatedinfo_clauseicon_01.gif 取扱説明書だけで済まないPL法対策

 PL法(製造物責任法)が95年7月1日から施行されたので、保険
に加入したり、取扱説明書を書きかえたり、あるいは製品に警告ラベル
を張ったりといった対策を既に施している企業は多いと思います。
しかし、PL法対策はこれだけでは安心できません。
あまり指摘されていないことですが、製品の広告やカタログも見直す必
要があります。
取扱説明書に「こんな使い方はしないでください」といくらわかりやすく
書いてあっても、広告やカタログの表現が不適切なために、ユーザーが
誤った使い方をして、思わぬ事故に遭う危険性は十分あります。

 米国では、広告やカタログが原因で企業の製造物責任が問われてい
る裁判が頻発しています。

企業が負けるケースは少なくありません。広告やカタログは、取扱説明
書以上に多くの人の目にさらされます。
商品の性能を知るにはカタログで十分、取扱説明書などは面倒だから
見ないというユーザーは多いものです。
経営者は、社内の宣伝担当者と一緒に宣伝活動を見直すべきです。

広告表現における注意点

では、広告やカタログのどのような点に注意すればよいのでしょうか。
その前にまず前提としたいのは、自分の会社の設計者が言うことであ
っても、それをうのみにはしないということです。
安全性、耐久性のテストはどのような条件のもとで行われたのか。
実際に使われる条件と隔たりがないのか。試作品でなく、ちゃんと量産
品でテストしたのかなどを必ずチェックしてください。

 その上で、表現については注意すべきポイントがあります。
まず、製品の安全性に関して重大な誤認や誤解を招く危険性がないか。
そんなことには以前から気をつけているという経営者の方も、使う側の
立場に立ってもう一度検証してください。

 たとえば、脱水能力にすぐれた洗濯機を開発したとします。
「梅雨時でも洗濯物が早く乾く」といううたい文句で、主婦が雨の中を
傘を差しながら洗濯している広告を作ったとします。

この広告は、商品の優秀な点が強調されていますが、大切な点を見落
としています。
洗濯機という家電製品は、感電のおそれがあるために、水にぬれるこ
とを極端に嫌います。
しかし、この広告を見た消費者の中に、家が狭いので雨にぬれやすい
軒下に洗濯機を出して使っても大丈夫だと考える人がいないとは限りま
せん。

対策は慎重になりすぎるくらいに、綿密に立てていきましょう。

販売業者と製造物責任

自社の販売した製品や商品に欠陥があって購入者あるいは
他の第3者が損害を被った場合、どのような責任を負うので
しょうか。

importantinfo_icon_01.gif <販売業者が賠償責任を負う法的根拠>
製造物責任法では原則として販売業者を責任主体としてません。
しかし、民法による責任追及がなされたり、販売業者が製造物
責任法第2条3項の責任主体と成り得ることがあります。
また、
現行の製造物責任法が制定される以前にも販売業者が民法に
基づき責任を追及された判例もあります。

internallink_icon_01.gif◆民法の規定による責任

(1)債務不履行責任(民法415条)
製造物が消費者の手に届くまでには、加工などの生産段階、
輸入・梱包・運送等の流通段階、販売・賃貸・設置等の供給段
階の各段階を経るのが通常です。したがって当該製造物が消
費者に届くまでには複数の業者の関与が認められます。販売
業者は販売した製品に欠陥があった場合、これを確認せずに
販売したことについて販売業者の過失が認められれば、債務不
履行責任に基づく損害賠償責任を請求されることがあります。

判例としては神戸地裁昭和53年8月30日判決(判例時報917
号103頁)があります。本件は販売業者からバトミントンラケッ
トを購入し小学生が負傷した事例です。裁判所は販売業者に
は「商品を流通に置く者は消費者の生命、身体、財産上の
法益を配慮すべき注意義務がある
」と判示しました。本判決
では販売業者の信義則上の義務は買主のみならずその家族
にも及ぶと解釈しています。

(2)不法行為責任(民法709条)
債務不履行責任のように直接契約関係がない場合にも民法709
条の不法行為責任に基づき、販売業者が消費者から責任を追
及される場合も考えられます。判例としては名古屋高裁昭和56
年1月28日判決(判例時報1003号104頁)があります。本件は
中古車トラックを販売してわずか数日後、運転中にブレーキがき
かなくなって追突事故が発生した事例です。裁判所は販売業者に
厳しい注意義務を課し「自動車の構造上の欠陥に起因して身体、
生命、財産に被害が生じることを回避する不法行為法上の義務を
負う」と判示し、原審を支持しました。

internallink_icon_01.gif◆製造物責任法による責任
(1)製造物責任法2条3項1号(責任主体)
 同号により「当該製造物を業として製造、加工又は 
 輸入したる者」が責任主体として挙げられています。
 販売業者は、「加工又は輸入したる者」の場合に責任
 を負う可能性があります。加工に関しては例えば商
 品の中身だけを製造業者が製造し、外箱の作成及び
 包装は販売業者が行った場合で警告表示が十分でな
 かった等の場合です。また輸入業者は製造・加工を
 行ったのが海外の製造業者である場合には製造物責 
 任法の主体として責任を免れません。
 
 (2)製造物責任法2条3項2号、3号(責任主体)
 2号により「自ら当該生産物の製造業者として当該
  製造物にその氏名、商号、商標その他の表示をした
  者または当該製造物にその製造者と誤認させるよう
  な氏名等の表示をした者」が責任主体として挙げら
  れています
。この規定により責任主体となるのは、
  例えばスーパーマーケットなどのプライベートブラ
  ンド商品、「製造元○○」、「輸入元○○」等自己の氏
 名などの肩書きを付した商品などの販売業者
です。
 商品を購入する消費者は表示されているブランド名
 を見て商品の品質や安全性を信頼し購入します。消 
 費者の信頼は例えばプライベート商品の場合、実際
 の製造業者に対してではなくプライベートブランド 
 を表示した販売業者に向けられています。ブランド
 表示者も商品に企画、設計などに係わっていること
 で製造物の品質・安全性に対しても責任を持つべき
 だとされています。

 3号では「当該製造物の製造、加工、輸入又は販売
 に係わる形態その他の事情から見て、当該製造物に
 実質的な製造業者と認めることができる氏名等の  
 表示をした者」を責任主体としています。この規定
 に該当するのは現実の製造業者でもなく、第2号の
 表示上の製造業者でもないが、その者が製造物の企
 画をし、製造上の指示を行い、使用上の注意を作成
 し、場合によってはその商品の一手販売を行う等実
 質的に相当程度その製造販売に関与し、消費者もこ
 のような実態をふまえてその販売者を信頼して当該
 製造物を購入している場合等における販売者とされ
 ています。

 (3)製造物責任法を根拠に損害賠償請求がなされた 
 近時の判例としては次の判例があります。いずれも
 販売業者の責任が認められています。

relatedinfo_clauseicon_01.gif 判例

① 東京地裁 平成13年2月28日判決
(判例タイムズ1068号181頁)
レストランでの食中毒で、輸入業者の瓶詰めオリーブが原因であり、
菌は開封前に混入していたとして販売業者(輸入業者)に責任が
あると判示しました。

② 東京地裁 平成15年5月29日判決
(中日新聞 平成15年5月28日朝刊)
購入した外国製高級車に欠陥や修理の不備があり、車両火災が
起き障害を負ったとして損害賠償を求めた訴訟で輸入元に製造物
責任があると判示しました。

PL法 事故予防対策

PL事故予防対策(PLPーproduct liability prevention)とは、PL事故の
発生を未然に防止するため、必要な予防対策を講じる事を言います。
企業が、安全で欠陥のない製品を消費者に提供していくためには、設計
段階における製品の安全性への配慮、製造段階における品質管理の徹底、
製品販売時における警告表示・取扱説明書の充実を図ることが必要です。

internallink_icon_01.gif1.設計上の欠陥の予防対策
製品の設計そのものに問題があれば、同種のPL事故が多発する可能性が
あるため、企業は、製品の安全設計に注力することが必要です。

製品の安全レベルの設定 最初に、要求される安全基準・規格のほか、他社の製品や過去の事故例を参考に、製品の安全レベルを設定し、これに基づき製品の基本設計を行うことが必要です。
危険性の予見と排除 次に、あらゆる角度から事故発生の可能性を検討し、これらの危険を排除するため、必要な安全対策を講じることが必要です。
安全性テストの実施 最後に製品の安全性が有効かどうかについて、安全性テストを実施し、安全設計の審査を行うことが必要です。

internallink_icon_01.gif2.製造上の欠陥の予防対策
製造上の欠陥は、様々な原因によって発生するため、企業は予想される
すべての原因を洗い出し、適切な予防対策を講じることが必要です。

原材料・部品の納入時 優良な納入業者を選定のうえ、納入業者の指導を強化し、さらに原材料・部品の納入時の検査を徹底することが必要です。
製造工程 機械設備の保守管理及び作業場の整理・衛生管理を徹底し、機械設備の故障や異物の混入などを防止するなど、製品の品質管理を強化することが重要です。
完成品の検査時 製造された製品は、出荷前の検査を行う必要がありますが、検査基準を明確に定め、適正な検査を実施することが必要です。

internallink_icon_01.gif3.指示・警告上の欠陥の予防対策
PL訴訟では、被害者は製品の設計上・製造上の欠陥を証明するよりも
指示・警告上の欠陥を証明するほうが容易であるため、指示・警告上の欠陥を
理由に損害賠償の請求を行う傾向があります。
したがって、企業としては、警告ラベルの表示と取扱説明書の記載に細心の
注意を払わなければなりません。

警告ラベルの表示 警告ラベルは、製品の危険性を具体的に・消費者の注意を引く形で明示することが必要です。
取扱説明書の記載 取扱説明書は、使用上の注意や取り扱い方法を見やすく、わかりやすく、正しく理解できるよう、記載することが重要です。

 

PL法 事故防御対策

PL事故防御対策(PLD product liability defence)とは、PL事故が発生した場合
に、企業が被る損害を最小限に抑えるための対策を言います。

internallink_icon_01.gif1.事故発生前のPLD対策
企業はPL事故が発生した場合に備えて、十分な事前対策を講じておくことが必要
です。

クレーム対応体制の確立 社内にクレームに迅速・的確に対応できる体制を確立することによって、PL事故の発生を速やかに確認し、被害の拡大を防止することができます。
安全対策に関する社内文書の保管 被害者の「製品に欠陥があった」との主張に対して、企業が有効に反論していくためには、安全設計・品質管理・検査結果に関する文書等、製品の安全性を証明できる文書を保管しておくことが必要です。
関連企業との責任関係の明確化 製品は通常、部品業者・完成品メーカー・流通業者など多くの企業が関与して製造・販売されます。
PL事故が発生した場合、関連企業との責任関係について、契約上、明確に定めておくことが必要です。

internallink_icon_01.gif2.事故発生後のPLD対策
企業は、PL事故が発生した場合には、被害者に対して適切な対応を行い、
損害を最小限に抑えることが重要です。

初期対応 被害者から事故発生の報告を受けた場合には、何よりも誠実な対応を心掛けることが重要です。
次に現場を訪問の上、現物を回収し、事故の内容・被害者の負傷の程度などを調査し、事実を確認する必要があります。
賠償請求への対応 調査の結果、企業の損害賠償責任が明らかな場合には、適正な賠償額で、早期かつ円満に示談解決することが必要です。
製品に欠陥がないと判断した場合には、安易な妥協は避け、企業は、製品に欠陥のないことを積極的に証明していくことが重要です。

PL法について

internallink_icon_01.gif概要
「「製造物責任法」以下PL(product liability)とは、企業が製造した
製品の「欠陥」によって第三者の身体・財産に損害が発生した場合、その
損害に対して、賠償責任を負うことを言います。
商品(製造物)に欠陥(瑕疵)があるため、消費者、利用者等が損害を
被ったときに製造業者等に賠償責任を負わせようとするのが「製造物責任」
です。

現代社会では、各種の製品が大量に生産され、流通過程を経て、多くの
消費者に販売されていますが、PL事故が起こると、多数の被害者が広い
地域にわたって発生し、企業は巨額の損害賠償金の負担を強いられること
になります。

近年、消費者の食品・医薬品・家電製品等の安全性に対する関心が高く、
企業は安全で安心な製品を提供することが強く求められており、ひとたび
深刻なPL事故が発生すると、社会的責任が追及され、企業ブランドが
大きく低下します。

1995(平成7)年の製造物責任法(PL法)の施行によって、被害者の
製造業者に対する賠償請求が容易になり、さらに消費者意識の高まりに
よって、PL訴訟の件数は増加傾向にある等、PL事故は企業にとって
重大なリスクとなっています。

ここでは、この「製造物責任法」(以下PL(product liability))について
解説します。

internallink_icon_01.gif解説
PL法は、民法の不法行為の特別法として成立、全6条で構成され、企業
責任の厳格化という社会的動向の中で、製品の欠陥により他人の生命、身体、
財産を侵害した場合に製造業者等に責任を課す法理を採用したものです。

PL法では、製造業者等は、その引き渡した製造物の欠陥により、他人
の生命、身体または財産を侵害した時は、原則として、これによって生じ
た損害を賠償する責任を負うもの
としています。(PL法3条)
その損害が、不具合によるもの等、その製造物についてのみ生じた
場合には、債務不履行責任(民法415条)や売り主の瑕疵担保責任
(民法570条)の問題となり、PL法上の責任は生じません

(PL法3条ただし書)

民法の一般の不法行為責任(民法709条)における「過失責任」主義に
よれば、被害者が製造業者等の故意または過失の存在を立証しなければ
なりませんが、PL法では、被害者保護のために「欠陥責任」が採用さ
れています。

したがって、被害者は製造業者の過失を立証する必要はなく、 代わって
「製造物の欠陥」 を立証することで足りるようになり、単に次の事項
のみを証明すれば良いことになります。
・損害の発生
・当該製品の欠陥
・欠陥と損害との因果関係

また品質保証とPL法・PL保険の関係を明確化できないケースをよく見かけますが、
PL法・PL保険の対象とするものは、下記の拡大損害を指しています。
商品・サービス自体の品質を保証するものではないことを注意しましょう

internallink_icon_01.gif参考:製造物の欠陥による被害類型と法律関係
品質
損害
製造物の欠陥により商品価値が下がることによる損害(瑕疵損害) ・不完全履行による債務不履行責任(民法415条)
・売買契約の場合は売主の瑕疵担保責任(民法570条)
・欠陥住宅等請負契約の場合は、請負人の瑕疵担保責任(民法634条、住宅品質確保促進法94条等)
・不法行為責任(民法709条)など
拡大損害 製造物の欠陥により被害者の生命、身体または財産を侵害することによって生じる損害 製造物責任法(PL法)3条

relatedinfo_clauseicon_01.gif製造物責任法

(目的)
第一条 この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

(定義)
第二条 この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。

2 この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。

3 この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。

一 当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(以上単に「製造業者」という。)

二 自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標、その他の表示(以下「氏名等の表示」という。)をした者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表
示をした者。

三 前号に掲げる者のほか、当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者。

(製造物責任)
第三条 製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただしその損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

(免責事由)
第四条 前条の場合において、製造業者等は、次の各号に掲げる事項を証明したときは、同条に規定する賠償の責めに任じない。

一 当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
※いわゆる「開発危険の抗弁」と呼ばれるもので、ここでいう「水準」はその時点での入手可能な最高の水準とされています。

二 当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。
※部品・原材料メーカーが、これを証明することにより免責となった場合、通常、完成品メーカーがPL法上の責任を負うことになります。

(期間の制限)
第五条 第三条に規定する損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び賠償義務者を知った時から三年間行わないときは、時効によって消滅する。その製造業者等が当該製造物を引き渡した時から十年を経過したときも、同様とする。

2 前項後段の期間は、身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、その損害が生じた時から起算する。

(民法の適用)
第六条 製造物の欠陥による製造業者等の損害賠償の責任については、この法律の規定によるほか、民法(明治二十九年法律第八十九号)の規定による。

例えば、損害賠償の範囲(民法416条)、損害賠償の方法(民法417条)、共同不法行為者の責任(民法719条)等が挙げられます。
なお、不動産、未加工の一次産品による被害や販売業者の責任などPL法の対象とならない場合には、民法の債務不履行(民法415条)や不法行為(民法709条以下)等による責任の問題となります。

 

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主なポイント
①製造物(第2条)
「製造又は加工された動産」とされ、ほとんどすべての製品が対象となると考えられます。
対象外となるのは以下のとおりです。

対象外:未加工の農林水産物、不動産、サービス、無体物(ソフトウエアなど)

②欠陥(第2条)
本法において、「欠陥」とは、「通常有すべき安全性を欠いていること」と定義されています。
(欠陥の類型)

◆製造上の欠陥
⇒設計・仕様の通りに製造されなかったことをいい、
 免責事由がない限り、欠陥ありと判断されます。

◆設計上の欠陥
◆表示上の欠陥

⇒考慮すべき要素の例
・技術上の実現可能性
・被害者側の事情と予見可能性
・回避措置と危険の相関度

製造業者が自らの設計通りに製品を製造した場合において、事故が発生したとき、
製品の欠陥は、設計上または表示上の欠陥に分類されます。
この場合の欠陥の有無は、次のような事情を考慮して判断することが規定されています。

(考慮すべき事情)
・製造物の特性 (製造物の表示、製造物の効用・有用性、価格対効果、被害発生の
蓋然性とその程度、製造物の通常使用期間、耐用期間など)
・通常予見される使用形態 (対象となる使用者、使用状況など)
・製造物を引き渡した時期
・その他の当該製造物に係る事情 (行政上の安全基準、中古品、廃棄された製品など)、
欠陥の有無について、PL法は、その成立段階においては詳細な用件を定めず、
施行後の裁判事案の中で、裁判所の具体的な判断に委ねられることとしています。

③責任主体(第2条)
本法により無過失責任を負うこととなる「製造業者等」とは以下のとおりで、
一般に販売業者は責任主体とはなりません。
・製造、加工業者(部品製造者を含みます。)
・輸入業者
・表示製造業者(OEM(original equipment manufacturing)生産の場合のブランド表示者等)
・その他実質的な製造業者と認められる表示をした者(製品に総販売元と記載している
ような業者、プライベートブランド製品等で製造業者の表示がない場合等)

④製造物責任の要件(第3条)
製造者の過失ある「行為」ではなく、製品の「欠陥」という性状を責任要件とする
無過失責任法理を採用しています。
・製造業者等が製造、加工、輸入または氏名等の表示をした製造物について、
・その引き渡し時に欠陥があり、
・他人の生命、身体または財産に拡大損害を生じさせ、
・その欠陥と拡大損害の間に因果関係が存在すること。
⑤立証責任(第3条)
被害者側に、欠陥の存在、損害の発生、欠陥と損害の間の因果関係の立証責任があります。

⑥法定責任期間(第5条)
製造業者等は、被害者が損害および加害者を知った時から3年(身体の障害については
5年)、当該製造物を引き渡した時から10 年間、本法による責任を負います。
ただし、蓄積損害・潜伏損害については、当該製造物を引き渡した時からではなく、
損害が生じた時から10 年間となります。

法律上の損害賠償責任

法律上の損害賠償責任
1.「法律上の損害賠償責任」の発生事由
損害賠償責任が生じるのは、主に不法行為と債務不履行の場合である。
これらは次のとおり整理して考えることができる。


(注)当事者の一方が、相手方に対して、ある事柄に関して被るかもしれない損害を賠償することを約する契約。
これにもとづく賠償責任(この契約がなければ負担しなかったであろう賠償責任)は、賠償責任保険普通保険約款の免責規定(いわゆる契約加重責任の免責)により賠償責任保険では担保されない。

不法行為責任
(1) 一般の不法行為責任

 民法第709条は、故意または過失によって他人の権利を侵害した者は、それによって生じた損害を賠償しなければならないと定めている(いわゆる「過失責任の原則」)。

民法第709条
故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス

 この規定は、どのような行為であれ故意または過失によって他人に損害を与えれば適用されるようになっており、その意味で、加害行為の種類、態様を問わずに適用される一般的、包括的な規定であるといえる。
 この第709条の不法行為責任のことを、通常「一般の不法行為責任」と呼んでいる。

(2) 特殊な不法行為責任

 民法では、第714条から第719条までにおいて前記(1)の不法行為の特殊な類型として、監督義務者の責任(第714条)、使用者責任(第715条)、注文者の責任(第716条)、土地工作物責任(第717条)、動物占有者の責任(第718条)、共同不法行為責任(第719条)をとりあげ、特別の定めをしている。

 これらは、それぞれの規定が適用される要件(加害行為の態様)が限定されているかわりに、一般の不法行為の成立要件(後記(3)参照)、とくに過失責任主義が緩和されている(加害者の責任の厳格化がはかられている)ところに特徴がある。
 これらの不法行為責任のことを、一般に「特殊な不法行為責任」と呼んでいる。

(3) 一般の不法行為責任の成立要件

 民法第709条の不法行為責任が生じるためには、次のような要件がみたされていなければならない。
①加害者に故意または過失があること
②他人の権利を侵害したこと
③加害者に責任能力があること
④加害行為により他人に損害が発生していること

 これらは、法律上の損害賠償責任を考える上での基本となる部分であり、参考までに補足する。
①加害者に故意または過失があること
日常用語で表現すれば「わざと」が故意で「うっかり」が過失ということになる。しかし、これでは現実に発生する複雑な不法行為をさばききれない。そこで、何が故意で何が過失かをある程度定義づけることが必要となる。
一般的には次のように考えられている。

「故意」…「一定の結果が発生するであろうことを知りながらあえてある行為をすること」
必ずしも一定の結果を発生させようという明確な意図(意欲)がなくても、結果発生の認識と容認があれば故意ということになる。

「過失」…「一定の結果の発生を知るべきでありながら、不注意のためそれを知りえないである行為をすること」

一般に、過失かどうかを認定する基準は、通常一般人としての注意を尽くしたかどうか(注意義務違反がなかったかどうか)におかれている。

なお、この注意の程度は、行為者の職業その他具体的状況により異なってくる。
なお、過失は軽過失(注意義務を少しでも欠いた場合)と重過失(著しく注意義務を欠いた場合)に区分されることがある。

特別法によっては重過失しか責任を負わず、軽過失については免責される場合がある。例えば失火についての責任がこれにあたる(「失火ノ責任ニ関スル法律」により重過失の場合のみ責任を負う。後記6.失火の責任に関する法律参照)。

②他人の権利を侵害したこと(または違法性が認められること)
709条は「権利侵害」といっているが、学説上の一般的な考え方では、「権利侵害」を違法性に読みかえて、故意または過失によって他人の利益を違法に侵害すれば賠償責任が生じるとされている。
すなわち、財産権、人格権のほか法律上保護に値するすべての利益に対する違法な侵害が含まれると考えられる。

財産権

物権的なもの
・所有権
・占有権
・用益物権(地上権、地役権など)
・担保物権(抵当権、質権など)
・特殊な物権(鉱業権、漁業権など)
・無体財産権(著作権、特許権など)
債権的なもの
・債権
・営業権

人格権

身体に関するもの
・生命(侵害)、身体(障害)
・身体的自由
・生活(妨害)
精神に関するもの
・名誉
・プライバシー
・肖像権

③加害者に責任能力があること

自己の行為が不法な行為として、法律上の責任が生じることを弁識できるだけの知的能力(責任能力)を有さない未成年者や心神喪失者については、責任能力がないものとして、損害賠償責任を免除している。
ただし、被害者に保護を与えるために、これらの者の監督者に対し監督責任が課せられている。

(注)責任能力は、その人によってまた行為の種類によって、それぞれのケースごとに決定される。人によって知能の発育程度が異なり、同一人によっても、物を盗んだり壊したりする行為については責任能力があるが、信用や名誉を傷つける行為については責任能力がないこともありうるからである。刑法(第41条)では14歳未満を刑事責任無能力としているが、民法ではそのような方法がとられておらず、一概に年齢によって決めることはできない。しかし、責任能力は概ね10歳から12歳くらいまでに備わるものと考えられている。

④加害行為により他人に損害が発生していること
この要件は、損害が発生していること、加害者とされる人の行為とその損害の発生との間に因果関係があること、の2つに分けて考えることができる。

(a) 損害の発生

いくら加害行為がなされても被害者に損害が発生していなければ損害賠償責任は生じない。そこで何が損害かが問題となる。一般に、経済的な損失(これを財産的損害と呼ぶ。これはさらに物的損害と人身損害に分けることができる。)のほか財産的な性格は持たなくても精神に加えられた打撃も損害と考えられている。これを精神的損害といい、それに対する賠償を慰謝料という。

(b) 因果関係

不法行為の成立要件としての因果関係は、賠償責任を負う加害者を定めるための要件と考えることができる。かつては、損害を与えたのが誰かは一目瞭然であって因果関係の有無が訴訟上争われるということはあまりなかったが、近代産業社会が高度化した段階ではいろいろな新しい型の不法行為事件(公害、薬害、医療事故等)が発生し、そのなかでしばしば因果関係の有無が争いになっている。これらの新しい型の不法行為事件の場合には因果関係の証明が極めて困難であり、被害者の救済という観点から「因果関係の立証責任の緩和」が認められるケースも多くなってきている。

債務不履行責任

(1) 概要
 「法律上の損害賠償責任」は、民法上、不法行為のほか契約債務の不履行によっても生じる。例えば、借家人が過失で借家を焼いた場合は、家主の家屋所有権の侵害として不法行為責任を負うのと同時に、借家人は家主に対し契約により家屋を保管し、返還する義務を負っているので、その不履行として契約責任も負うことになる(請求権の競合については後記4.不法行為責任と債務不履行責任参照)。

民法第415条
債務者カ其債務ノ本旨ニ従ヒタル履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ其損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキ亦同シ

(2) 債務不履行の態様

債務不履行には次の3つの態様があるが、賠償責任保険で主として問題になるのは、いわゆる「不完全履行による積極的債権侵害」である。 

履行遅滞 … 履行期に履行が可能であるのに履行しないことをいう
履行不能 … 債務者に帰すべき事由により履行ができなくなることをいう。
不完全履行 … 債務の履行がなされながら、それが不完全・不適当な履行である場合をいう。

 

不法行為責任と債務不履行責任

(1) 請求権の競合

 民事責任は「不法行為責任」と「債務不履行責任」に分かれる。
前者は特別の契約関係にない者の間で一般的に要求される責任であり、後者は契約を結んだ当事者間の責任である。
一つの違法行為がどちらか一方の責任しか満たさない場合(例:タクシーの運転手が通行人をはねた)もあれば、両方の責任を満たす場合(例:タクシーの運転手の過失により乗客が死傷した)もある。
この両方の責任を満たす場合に、請求権が競合することとなる。
この場合、被害者は加害者に対し、債務不履行責任を追及することも不法行為責任を追及することもできるとされている。

(例)①欠陥商品事故(売買契約にもとづく債務不履行責任と不法行為責任)

②医療過誤  (委任契約にもとづく債務不履行責任と不法行為責任)

③借家人の失火(賃貸借契約にもとづく債務不履行責任と不法行為責任)

④労災事故  (雇用契約にもとづく債務不履行責任と不法行為責任)

 

(2) 不法行為責任と債務不履行責任との相違点

今日では一般的に、不法行為責任と債務不履行責任とでは、その要件・効果について実質的に大きな違いはないといわれている。

①挙証責任

不法行為も債務不履行も過失責任主義の上に立っているが(注)、不法行為の場合は被害者が過失の挙証責任を負うのが原則(民法第709条)であるのに対し、債務不履行の場合は、加害者の方に、過失がなかったことの挙証責任を課している(民法第415条)。

(注)不法行為では、原則として行為者の「故意または過失」が必要とされ、債務不履行では「責に帰すべき事由」が必要とされているが、この両者の内容は同一であると考えられている。

②損害賠償の範囲

不法行為の場合も債務不履行の場合も、民法第416条が適用され、相当因果関係のある損害が対象となるとされており、この点における両者の差はない。

③過失相殺

被害者に過失のある場合、債務不履行責任では、賠償額を必ず減額しなければならないが(民法第418条)、不法行為責任では減額せずにおくこともできる(民法第722条2項)。

④消滅時効

不法行為では損害および加害者を知った時から3年、行為の時から20年である(民法第724条)。債務不履行では原則として損害が発生してから10年(民法第167条1項)であるが、例えば商行為から生じた債権は原則として5年(商法第522条)である等、これより短い時効期間が定められている場合もある。

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